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序
「両輪の轍(わだち)連載を始めます」
職業教育研究開発推進機構では、「職業」が人生に持つ意味を大切に考えています。その意味で「人生」に直接かかわる対人援助職については数ある「職業」の中でも、特に強い関心を持っています。
この関心を深めようとする時、「職業」や「人生(生活)」(日々の暮らし)を展開して(生きて)いくのに必要な様々な情報(体験や知識・理論)に関しては、言語化(専門用語化)された概念やその体系としての理論として学ぶのが、日本では一般的でしょう。
しかし、現実には、それらの言語概念よりも、様々な表現方法での小説や詩やドラマ(映画・演劇)や絵画などの方が、リアルな現実を理解するのにわかりやすい場合があります。多分、言語概念では削ぎ落とされてしまう、情緒とか実感に迫る経験とかをその表現の範囲に含むからでしょう。私達は、どちらかと言えば、言語概念としての理論よりも、体験的に共感できる情緒をふくむ、これらの表現の方が分かりやすいし、その内容の方向に動かされやすいように思います。
職業教育研究開発推進機構では、その意味で、理論や実証的な研究開発も行いつつ、「人間の幸せ」や、それを支える「職業」に関しての、ドラマや小説などの表現(芸術)にも注目しています。そう言う中で、介護の現場で働いている方が、小説を書いているという情報に接しました。送っていただいて、拝見した所、登場人物の「生き様」や、様々な介護職の方々がどう対応しているかが、生き生きと描かれており、「対人援助職」の様々な課題や今後の課題も、良く判ると思いました。
この作品「両輪の轍」をお書きになったのは、宮風健司さんです。宮風さんは、サバイバルゲームの趣味が高じてミリタリー系の店に就職。サバイバルゲームを続けるうち、疑似体験ですが死の恐怖を感じたそうです。また宮風さんは子供の頃から映画が好きで、映画俳優に憧れていた思いが消えることがなく、ついには仕事を辞めて劇団に入ったそうです。劇団で様々な人間を演じたことで多様な人間性を尊重することを感じたそうです。そして東洋大学で法学を学んだ時には物事を判断する際、思い込みに偏らず、客観的事実を意識する大事さを学んだとのことです。宮風さんは今、介護現場で勤めています。本人曰く、若いころは介護に携わることなどまったく関心がなかったとのことです。しかし今考えれば、今まで生きてきたなかで、死の恐怖や多様な人間性の尊重、客観的事実に基づく判断などを感じ、心に留めていたことが必然的に介護の世界に行きついたのかもしれませんと語っています。宮風さんは介護福祉士やケアマネジャーなどの資格を持ち、高齢者介護に勤めて25年が経つそうです。今は小説を書きながら仕事を続けておられるというユニークな方です。
聞くところによれば「両輪の轍」は、まだ、未公開作品だそうです。職業教育研究開発推進機構では、この作品を埋もれたままにしておくのは勿体ないと、本機構のHPで公開させていただきたいとお願いした所、快くお受けいただきました。かなりの長文ですので毎週HPで発信していく方法で、公開していくことにします。
この、「両輪の轍」は、今や高齢者介護を必要とする方々の中心になりつつなる団塊の世代に属する主人公の介護を巡って展開される内容で、彼らの世代の象徴的事件から始まりますが、詳細はお読みいただければのお楽しみにしたいと思います。「明日は我が身」の心境で是非お読みください。
職業教育研究開発推進機構 HP編集担当
第2話
「2025年 4月上旬」
小久保は午前中に入所した特別養護老人ホーム「安らぎの里すずらん」の部屋にいた。彼は今年で七十五歳になっていた。二年前に長年共に歩んだ妻の洋子に先立たれ、埼玉の浦和にある自宅で一人暮らしを続けていたが、今年の一月に脳梗塞により・・・
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第3話
「狭い部屋」
小久保はあらためて部屋を見渡した。これから嫌でも生活しなければならない住処はたったひと間しかない狭い部屋。小久保は大学時代の下宿屋を思い出した。当時借りていた部屋はここより狭い四畳半だった。その下宿屋は東大に歩いて行ける距離で、下宿屋から東大に・・・
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第4話
「見学」
山口と秋野はエレベーターから出て、二階フロアへ入った。エレベーターを出ると、廊下が左右に伸びていた。右の廊下には居室が並んでいた。
「2階と3階には」秋野が言った。「全部で九の部屋があり、個室が三部屋、他は四人部屋です。利用者様の数は一フロアで二十七名です」
山口は廊下を眺めた。真っ直ぐに伸びる廊下は・・・
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第5話
「マウス」
小久保は食堂を出て、自分の部屋の隣にある二○六号室の前に来た。ドアの横にあるネームプレートを見上げた。ネームプレートには藤田清の名前が書かれていた。他の名前がない、個室か。小久保はドアをノックした後、ゆっくりとドアを開けた。部屋の中を覗くと・・・
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第6話
「朝食」
山口は待ち合わせの居酒屋に入ると先に到着していた田村のボックス席に着いた。
田村は仕事帰りで、黒のスーツ姿で座り、彼の前にはいつもの焼酎の梅割りが置いてあった。田村は山口が以前勤めていた介護老人保健施設の事務長であった。しかし、山口が退職する前に異動となり・・・
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第7話
「トイレ誘導」
初出勤した山口は事務所で入職手続きを済ませると、施設長のもとに行くように言われた。施設長室のドアはチーク材のダークブラウンで重厚感を漂わせていた。山口はドアをノックするとドアを開けた。「失礼します」
施設長室に入った山口は部屋全体を見渡した。部屋の色調はドア同様にチーク材のダークブラウンで統一されており、大型の木製キャビネットとレザー生地の応接ソファは上品な光沢を醸し出している。しかし・・・
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第8話
「目的」
小久保は食堂のテーブルで周りを見渡していた。食事を済ませた利用者達は歯磨き粉が付いた歯ブラシとガーグルベースを渡され、自分の席で歯磨きをしたり、自分で出来ない者は職員の介助で歯磨きをしていた。
同じテーブルの織田は、席を離れ自分の部屋に行った。他の男達はまだテーブルについている。
「みんなは毎日何をして過ごしているんだ」小久保はつぶやいた。
「寝てるか、テレビを見るか、ですね」小久保のつぶやきを聞いた藤田が言った。「ここでは・・・
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第9話
「地上の星」
山口が喫煙所で煙草に火をつけようとしたときに、施設から支給されたPHSの電話が鳴った。電話の相手は二階職員の塚本だった。電話の内容はショートステイで短期間施設に入所している利用者の小早川さんが介護長と話がしたいとのことだった。山口は煙草を早めに切り上げて二階に向かった。
山口が二階のサービスステーションに入ると・・・
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第10話
「業務改善委員会」
山口は小早川と別れた後、初めて業務改善委員会に参加した。山口は会議が始まる前に、上井施設長から集まった職員に紹介された。会議室のテーブルに着いているメンバーは上井施設長、澤田事務長の他に各フロアの介護主任、看護職全フロアを統括している看護主任、そして主任相談員、施設ケアマネジャー達が参加していた。
司会役の主任相談員、長谷川が・・・
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第11話
「扇動」
二階フロアの食堂では、利用者達が集まっていた。食堂の時計がまもなく三時を指そうとしている。三時は利用者におやつを提供する時間となっていた。
ステーションでは職員達が厨房から運ばれてきたおやつを利用者に配膳する準備を始めていた。本日のおやつは、吹雪饅頭で白い薄皮の所々から中のつぶし餡がのぞいている。
おやつ準備をしている塚本の視界の隅に小久保と藤田が食堂に入って来た姿を確認した。塚本は二人の移動する方向に違和感を覚え、視線を二人に向けた。二人は自分達のテーブルに向かわず・・・
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第12話
coming soon
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