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【職業教育コラム(宮田雅之⑥)】実学を貫いた政治家 髙橋是清

更新日:1月14日


「経済の理屈は誰でも言う。だが、実際に金を動かすとなると、百の理屈より一の胆力だ。」

これは高橋是清(1854~1936年)の『高橋是清自伝』の一文である。理論ではなく行動に宿る知である「実学」の真髄が現れている。


政治家・高橋の最大の功績は、世界恐慌後に景気回復を成し遂げたことであろう。1931年以降、大蔵大臣(現在の財務大臣)として、「金本位制の停止」「国債発行による公共投資」などにより、デフレを止め、失業を減らした。世界的な経済学者ジョン・メイナード・ケインズが1936年に発表した「雇用・利子および貨幣の一般理論」より5年も前に、その基本的な理論を実践していた事実に驚かされる。


高橋は、「不況には金を出せ、好況には絞れ」という、実にシンプルな判断基準に従っていた。物価・雇用など「生活指標」を注目し、「経験則」「現場感覚」を大切にしていた。高橋の政策は後付で「実学的ケインズ主義」だったと表現されることがあるが、権威ある理論ではなく、自らの肌感覚を研ぎ澄ませ、街の声を根拠に行動していた点が俊逸である。


高橋の「実学」的思考は下記の4点に整理できるのではないだろうか。


  1. 実務知の尊重(現場主義):市場の空気を重視し、実務家の意見を聞く

  2. 国民生活に根ざした経済観:失業や賃金低下を「国の恥」と捉え、雇用を重視

  3. 柔軟性(臨機応変):国民生活を守る目的で、金本位制からの離脱を即断

  4. 俯瞰的な視点:経済だけでなく、教育・外交・産業育成などを一体として把握


高橋の根底にある思想は、江戸時代中期以降に荻生徂徠(1666~1728年)らが唱えた「経世済民」思想、すなわち「世をおさめ、民をすくう」ことと相通じるものを感じる。荻生が遺した政策提言書「政談」には、困窮が社会の混乱の原因になるため、国を豊かにすることを治世の根本と位置付けている。高橋の「実学」は、先人の知恵を、200年の時を超え、20世紀に国家財政レベルで再演したものとも言えよう。


「実際に世を動かすための学問」「人々の生活を豊かにするための学問」が高橋の「実学」の本質であろう。低迷が続く日本経済復活のヒントは、こうした歴史の中に見出すことができるのかもしれない。



一般社団法人職業教育研究開発推進機構

代表理事補佐 宮田雅之






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